ささやかな幸福感

 最近朝起きて歯を磨く時に、歯磨き粉の残量がほとんどなくなり、無理やりチュウブの底の方から力づくで巻き上げて、少量を出口に出し使っていました。

先日、その歯磨き粉のチュウブが半分に切られていました。

確かに、歯ブラシで切られたチュウブの内側をこすると、まだまだ使えるのです。

箱入りの一人娘の割には、経済価値観が同じような嫁で助かっています。

そのことで彼女を褒めると「あなたのお母さんがそうしていたの」との返事。

 妙に嬉しくなるのと同時に、私の両親の苦労を思い起こしました。

尋常小学校しか出ていない二人にとって、私と弟二人を大学にやることは夢だったのでしょう。

 薄給の公務員では、一般的には無理です。

色んな欲求を抑えて倹約し、我々の学費を捻出したに違いありません。

そう思うと、目頭が熱くなり、両親への感謝の気持ちで一杯になります。

思えば思うほど、大学でのいい加減な勉強を猛省もします。

 数日前にホームを訪れました。

母親の部屋に入ると、妙にむっとして暖かいのです。

秋物の長袖も着用していました。

エアコンのスイッチを確かめると「暖房 26度」。

チェックのために父親の部屋に入って調べても同様でした。

父親に至っては、長袖のカーディガンまで着ています。

聞くと、両部屋共に父親が温度設定しており、寒いからと。

今、外は夏ほど暑いというときょとんとしていました。

 高齢になると皮膚の感覚も鈍ってくるのでしょう。

このままでは熱中症にならないとも限りません。

両方の部屋共に「冷房 26度」に設定し直し、二人にしっかりと言い聞かせました。

 冷蔵庫を開けると、私が買ってきたラッキョウがそのまま袋に入っていて、カットフルーツのパイナップルも食べかけのままでした。

カットフルーツを取り出し、爪楊枝を刺して、二人に直ぐに食べさせました。

「美味しい美味しい」との笑顔は何よりなのですが、認知機能も少しずつ衰えているのでしょう。

それでも私や真ダムの名前を憶えてくれ、顔が判別できることが幸いです。

身近で最後まで面倒を看れる幸せを感じながら、ホームを後にしました。

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