チャンスを自覚する

 2025年7月8日(火)20:57 読了。

「稼ぐ小国 の 戦略」関山健 鹿島平和研究所 編

 最近日本経済の凋落ぶりがGDPで良く表現されています。

特に、一人当たりGDPのランキングを見るとかなりのショックを覚えます。

日本経済が低迷していた30年の間に、世界各国はかなり成長していたことを自覚する日本人はほとんどいません。

 因みに2023年の一人当たりの名目GDPは、

1位 ルクセンブルク 129.810 米ドル

2位 アイルランド  103.466 米ドル

3位 スイス     101.510 米ドル

7位 アメリカ     82.715米ドル

34位 日本      33.899 米ドル(G7で最下位)

 私は非常に興味深く読みましたが、忙しい人々にはそれほどお勧めするほどではありません。

ルクセンブルク、アイルランド、スイス、シンガポール、アイスランド、デンマークについて詳細が調査されています。

タイトルにあるように、全てが小国で、資源も人口もほとんどないところが、一人当たりのGDP世界ランキングベスト10に入っています。

結論からいうと、小国が生き残るためにはとの非常に強い危機意識が、経済の成長を支えているということ。

ミクロまで落とせば、小が大に勝つ方法が示唆されています。

どこの国にも共通しているのが、『人』に対する投資が半端ないことです。

当然ですが『人』しか資源がないからです。

 一番関心を持ったのがスイスの章です。

九州とほぼ同じ面積で、人口も似通っている900万人。

産業構造も非常に似ているにも拘らず、その厚みが全然違うのです。

2023年の九州の平均賃金373万円に対して、スイスは870万円。

 労働生産性を調べると、農業は日本の25ドルに対して38ドル、製造業は101ドルに対して170ドル、サービス業は79ドルに対して127ドル。

つまりスイスは高付加価値品戦力を徹底しているのです。

機械式時計など良い例でしょう。日本のクオーツが世界を席巻した時、苦境に立たされながらもクオリティを守り抜いたのです。

これらの産業を支えているのが「高度人材」。

量より質を優先する風土が根付いています。

得意領域で勝ち切る戦略を継続することで現在があります。

ここら辺は、我々業界にも当てはまる気がします。

 九州よりやや大きい面積に、ほぼ福岡県民に近い人口593万人のデンマークも、人への投資が一番の優先事項。

フォルケホイスコーレという運動は「力がないのは知識がないためで、自ら学び、自分自身に責任を持つ」というのがテーマ。

消費税減税や給付金等の政策を国に頼る甘ちゃんの日本人とは違います。

デンマークの豊かさは、私が既述した2馬力論と同じ『2人稼ぎモデル』が生み出しています。

賃金のジェンダーギャップがほとんど無いのもそれを支えています。

勝てるニッチな分野を選び、海外の顧客が高い価格でも買うような高付加価値の製品やサービスを提供する戦略です。

「レゴ」などが有名です。

 大金持ちが好んで移住するシンガポールの国家概念も経営に通じます。

「『停滞という贅沢』は許されず、ひたすら前進するしかない」

 これらの国に共通することは、人材でも企業でも競争を奨励するというか煽っている感じすらあります。

その証拠に、競争力を失った企業や衰退産業を国が助けることはありません。

「初めから完璧でなくてもいい、変化を恐れず実行せよ」の感覚などは、私も同感です。

「巧遅は拙速に如かず」なのです。

 1990年の日本人の平均労働時間は年間2031時間で、現在は1558時間。

米国は1764時間が1731時間。いつの間にか日本人は働かなくなっているのです。

推計では2031時間働けば、一人当たりのGDPは軽くアメリカを超えるそうです。

 これほどの時短にも拘らず、ギャラップ調査によると(熱意ある従業員)の割合は日本では6%しかいなくて、世界平均の23%を大きく下回る最低水準。

また、日本生産性本部の社員の意識調査では、「野心の低下」の傾向がみられるそうです。

「自分の能力を試したい」割合が急減し、「楽しい生活がしたい」という比率が急増。

日本の若者の平和ボケもここまで来ると、笑うしかありません。

しかし、逆に競争相手が軟弱ということは、競争に勝ち抜くチャンスが多いことを意味します。

私の時代は、人の倍働かなければ成功の確率は上がりませんでしたが、現在は1.5倍でもかなり勝てる時代となった気がします。

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