雪の断章
日々、眼前の仕事を追われるように処理しながら、
どうしようもない苛立ちや、将来の不安を抱えながらも
少しばかりの喜びと安どを感じる繰り返し。
高校時代から大学時代にかけてのガラス細工のような
ピュアーな元々の性格を無理やり封印してきたものが
束の間、一部解けたような気がしました。
他人の内面などわかりようはないのですが、
周りの人達を見ていますと、内面と外面が一致しているようで
羨ましく且つ、傍にそのような人がいて、ほっとしている自分がいます。
弱い精神を強くするために、男はこうあるべきだ、
仕事はこうあるべきだ、恋愛はこうあるべきだと
全てに僅かばかりの逃げ道を残しつつ、
その型に自分を嵌め込んできた様な気がします。
殆んどの人々が、自分が思った通りの人生を
送ってはいないと思いますが、逆に思った通りの人生とは
具体的にどういうものかをきちんと説明できる人も
あまりいないと思います。
長文で、展開にもどかしさを感じもしましたが、
確定申告の1.5時間に及ぶ待ち時間や、右肘のレントゲン・MRIの
1時間の待ち時間だけではなく、車に乗りながら
信号が赤になるのを今か今かと待ちつつ
助手席に置いたこの本を読みました。
人を愛すること、人を思いやること、人を憎みぬくこと
その内面と外面の葛藤をあまりにも巧みに描いており
知らず知らずのうちに人間の複雑な心の深淵を
覗かされた気分でした。
結末近くになって、読むことを止められずに
普段より1時間以上遅れた夜の散歩に行くときの
愛犬マジェスティのただただ私を信じ続けている
黒く澄んだ円らな瞳が、私を現実に引き戻してくれました。
「雪の断章」 佐々木丸美 創元推理文庫