残りの1個
強くなったり、弱くなったり、
たまに、あれっと思うくらい止んだりしながらも
精神的にも限度を超えるほど降っていた8月の雨でした。
車庫から数歩の玄関まで、
運悪く夕方遅くから降り始めた、強い雨に打たれながら、
憂鬱な気持ちと諦めの心境で、
ある土曜日の午後8時を少し過ぎたころ
帰宅した日のことです。
ドアフォンが「留守中に訪問者がありましたよ」と言わんばかりに
繰り返し、基盤の中央に丸く大きく鎮座した透明のスイッチを
何回も赤く点滅させていました。
とりあえず、洗面所へ行き、濡れたエドウィンのジーンズと
ヤマハのレーシングシャツを脱ぎ、頭をバスタオルで繰り返し拭いました。
それから、テニスのハーフパンツとTシャツに着替えリビングへ。
再生してみると、おそらく小学生低学年でしょう、
背伸びをしながら、何回もベルを押している様子が映っていました。
「ああ、ボールか何か入ったな~」
我が家の前には、ちょっとした広さの公園があります。
普通の日も、親子連れとかが楽しそうに遊ぶ姿が見受けられます。
職業柄、土、日、祝日を留守にするために
特に子供達で賑わう、そんな日によくボールが
3Mのフェンスを越えて、自宅の庭に転がっているのです。
地元に球団があるせいか
野球ボールとサッカーボールが庭に転がり込む比率は
圧倒的に野球ボールが多い気がします。
翌日庭に出てボールを探すと、
門からちょっと奥の方の和室の前に1個と、
門から近いリビングの前に1個、
デザインは違いますが、明らかに野球のボールがありました。
さぞやショックだったろうなと思いながら
いつものように、ドアホンを設置しているブロック塀の上に
2個並べて置いておきました。
特にギザギザが特徴の、おそらく一体成型で作られたであろう方は
二日後にはありませんでした。
でも、写真のちょっと高級な気がする方は3週間経つ今でも塀の上です。
遠くから遊びに来たのか、夏休みにこちらに帰郷したのか
それとも、さっさと新しいものを買ってしまったのでしょうか。
一所懸命で純粋な子供達の瞳を見たり、歓声を聞くと、
汚れかかった自分が洗われるような気がします。