生き延びる
ある日の黄昏時に、ダイニングテーブルに向かい合いながらコーヒーを飲んでいたときです。
私が、読書に疲れ執務室を降りてきてからのことでした。
真ダムが「ねえ、デパートへ行かない?」
「別にいいけど、なんか買うもんがあると?」
「特にないけど、デパートの毎月1万円の積み立てが1年分終了し、13万円分使えるの」
午後5時過ぎに私が運転して、天神デパートの地下駐車場へ。
最近は、外商と契約したデパートにばかり行っていたので、そのデパートは久しぶりでした。
係の年配男性のとても丁寧な挨拶に驚きました。
ゆっくりと地下の食品売り場から順に、エスカレーターで上の階へ進みます。
婦人服がある階に来た時に、とあるブランド店の女性店員がすかさず近づいてきて商品をアピール。
この女性は出来るなと感じました。
ウィークデイの夕方に年配の夫婦が見て回っていたら、成約比率は上がるのです。
現物を観てネットで買うことはしないし、大体男性が購入を許すことが多いからです。
真ダムの顔を観て、それほど欲しくはないと感じた私が「他も見てきます」といってその店を後にしました。
その階のお客はほとんどいませんでした。
「オンワードのファミリーセールで、割引の商品を買った方が絶対にお得」と私がいうと、「そうね」との相槌。
6階から新館へと行きました。
新館は高級品が揃っています。
台所商品売り場へと歩を進めました。
「まな板と包丁が欲しい」と彼女が物色していました。
私は、年配の女性係を見つけ、彼女にアドバイスを受けるように促しました。
予想通り、かなりの商品知識でしたし、私も初めて知ったことがありました。
私が、「関で作られた包丁を教えてください」というと、鍵をかけていたショーケースを開けていくつか取り出してくれました。
「えっ、これは、ツヴァイリングじゃないの?」
「そうなんです。ツヴァイリング&ヘンケルが関市の工場で作らせている商品です」
岐阜県関市は「世界三大刃物産地」の一つとして有名なのは知っていました。
私の爪切りもそこの産です。
室町時代初期から800年の伝統を受け継いでいます。
何と、そこの職人にドイツの伝統企業が作成を依頼した商品でした。
一般家庭においては牛刀が最も使用頻度が高いので、私が真ダムにそれを勧めました。
係の人に砥ぎはどうするのか尋ねました。
おおよそ2年間は切れ味は変わりません。
その後、トマトを切るときに違和感がでたら、このコーナー店に持ち込んだら、関市の作成者に送り砥ぎ直してもらうとのこと。
真ダムは高額に躊躇いましたが、私は「中途半端が一番いかん、毎日使うもんだからいい物を買え」とアドバイス。
結局包丁と対になったまな板も購入。
自分一人高額消費をしたのが後ろめたかったのか私に「ねえ、あなたはなんか欲しいもんは無いと?」と。
「そんなら、7階に行って盛り蕎麦大盛りをおごってくれ」
改めて日本の技術の凄さを感じました。
関刃物は伝統を重んじながらも、精密機械を導入したりAIを活用したりして、世界の最先端を行っているそうです。
若手後継者もかなりの数いるとのこと。
衰退産業だろうが、成熟産業だろうが、生き残れば世界は見えてくる好例だと感じて帰宅しました。
